販売データ110番

ポートフォリオ3

前回は、ポートフォリオ上でライバルとの競争状態を想定できることについて触れたが、今回は事例を元に、ライバルの動きを想定し、それに対する戦略を考えてみよう。

ポートフォリオは顧客や商品、地域、大きくはビジネスユニットなど、様々な対象の分析に用いられるが、ここでは、わかりやすい地域分析を例にとって考える。

次の図は、10年前にある銀行の支店で管轄地域の顧客を分析した例である。(地域名は県の名前に変えてあるが、単位は「町」)

横軸は、現在の「地域ごとの世帯数に対する顧客件数」という実シェアを、縦軸は4ヶ月前と比べた顧客件数の伸びを示し、また円の面積は、地域ごとの顧客件数を表わしている。

さて、このチャートを見てまず気付くことは、とにかく「わかりやすい」ことであろう。
このポートフォリオは、多くの地域の現状を一目でわからせてくれる。
たとえば「神奈川」と呼ばれる地域と「岐阜」と呼ばれる地域を比べると、顧客数は神奈川の方が多いのに、シェアは岐阜の6分の1しかない。
このことは、「神奈川の市場はとても大きく、まだまだ開拓の余地がある」ことを示している。
ただしこれだけで「神奈川に全力投入すべし」というわけにはいかない。これから述べていくライバルとの関係を考慮した戦略が必要になるのである。

それでは、今回のテーマである、「ライバルの動き」を想定してみよう。ライバルも常に市場の動きをウオッチしているはずである。

● 当行のシェアも伸び率も大きな地域

まず、ライバル銀行にとって当行の動きが最も気になるのはどの地域であろう。静岡と秋田地区ではなかろうか。なぜなら当行が大きなシェアを持ちながら、かつ大きな伸びを示しているということは、市場自体が成長しているか、または相手から見て、この地域に対する当行の侵食が進んでいると見えるからである。
したがってこのエリアでは、ライバルも必ず全力で対抗してくるだろう。
当行にとって大きなシェアがあり、伸びてもいる非常に魅力的な2つの地域が、実は最も激しい戦いの場となり、互いに総力戦での戦いにならざるを得ないのである。

● 当行のシェアが大きく、伸び率は小さい地域

では、同じように当行のシェアが大きな長野・岐阜はどうであろうか。ここでは当行の成長率は高くない。
この場合のライバルの判断には、「市場の成長性」が加味される。
もしこれらの地域が人口の増加傾向にあるなど、市場の成長が見込まれるならば、ライバルは当行の力が落ちているとみて、シェアを伸ばそうと力を入れてくるであろう。そして当行のシェアをも侵食しようとするはずである。
逆にこれら地域の新たな成長が見込めない場合は、ライバルはこう考えるだろう。
「長野と岐阜はこれ以上の成長は見込めないし、ここを攻めるということは、相手がすでに抑えているシェアを奪い取る戦いになるが、これには相当な出血も覚悟しなければならない。」
そして下す結論は次のように想定される。1つは利の薄い戦いを避けて、現在のシェアを守ることに重点を置く。もう1つは「それでも相手のシェアを奪い取る」の2通りである。

このように見てくると、この地域で当行のとるべき戦略ははっきりしてくる。
既存顧客とのよい関係を一層強固なものにし、既存のシェアを守ることである。そしてライバルの侵食がないかどうかに常に注意を払い、侵食を感知したら直ちに対処することが必要である。
なお、この地域の市場の成長性が高い場合は、ライバルとの戦いは前述の「激戦区での戦い」へとシフトしていくだろう。

● 当行のシェアも伸び率も小さい地域

最後に当行のシェアの小さい神奈川・群馬について考えてみよう。
当行のシェアが小さいということは、大きなシェアを持つライバルがすでに存在するということである。それは複数かもしれないし、1社だけかもしれない。
(もうひとつのケースとして、当行と同じようなシェアを持つ企業だけが群雄割拠している場合も考えられるが、みんなが一斉にこの市場に参入したならいざ知らず、通常こんな状況は生まれないだろう。したがって当行のシェアが小さいケースでは、すでにこの地域で大きなシェアを持つライバルが存在するものとして考えるのが妥当である。)

ではこの地域ではどのような競争が展開されるであろうか。
これを考える際には、この地域における当行のシェアが、どのような経緯でそこに位置づけられたかを併せてみる必要がある。
1つは、この地域での営業展開が最近始まったという場合で、シェアは当然0からスタートしており、これからいかに拡大していくかというケース。
もう1つは、かつてはもっと大きなシェアを持っていたが、競争に負けてこの位置まで落ちてきたというケースであるが、この場合の選択肢は「撤退」か「成り行き任せ(少しでも利益が出ているなら様子を見よう)」というのが普通なのでここでとどめておく。

さて前者のケースであるが、この場合当行は「弱者」として振舞うことになる。
というのも、すでにシェアを確保しているライバルは、当行の動きが「目障り」になってくると、全力で当行をつぶしにかかってくるからである。
したがって当行は大規模な宣伝活動よりも、地道な営業活動による着実な顧客の開拓を進めていくことになる。

ただし当行が「大金持ち」で、かつその地域への今後の期待値が大きいと確信したならば、まったく逆に、「強者」として力ずくで参入し、一気にシェア拡大を図るという選択も考え得るのである。

まとめ

以上の事例から分かるように、分析対象物をポートフォリオ上に位置づけ(ポジショニング)すると、その「位置」からライバルの動きを想定することができ、ひいては当方の採るべき基本戦略を考えることができるのである。
なお、実際のポートフォリオ分析にはもうひとつ、「シェアが小さくて伸び率が大きいエリア」での分析があるが、これについては後述することとする。